ギグエコノミーとは?意味、歴史、問題点。未来はあるのか?

デジタル経済の発達に伴い、新しい働き方ができることから注目を集めている「ギグエコノミー」。

聞いたことはあるものの、「よく分かっていない」という方は多いのではないでしょうか。

本記事では、「ギグエコノミーとは何か、意味・特徴、シェアリングエコノミーとの違いなど」をギグエコノミーの先進国である米国の資料や専門家の資料をもとに解説。

また、「ギグエコノミーの問題点、メリット・デメリット」を国内だけでなくグローバル目線で紹介しています。

目次

ギグエコノミーとは

ギグエコノミー(GIG ECONOMY)

ギグ・エコノミーは、短期的な仕事に従事するフリーランス労働者が、オンラインプラットフォームを通じてサービスを提供する新しい経済システム(※1)です。

ギグエコノミーとは、フルタイムの正社員ではなく、独立した請負業者やフリーランサーによって満たされる一時的およびパートタイムのポジションに大きく依存する労働市場です。

個人が自分のスキルや時間を商品化し、需要と供給を直接結びつけることによって生み出される新しい経済システムとして近年注目を浴びています。

ギグエコノミーにおける仕事や働き方をギグワークと呼び、働き手のことをギグワーカーと呼びます。

ギグワーカーは、単発的な仕事や短期的なプロジェクトに従事する傾向があります。一方、フリーランスは、プロジェクトの期間が長く、しばしば長期的な契約を結ぶことがあります。

どちらも法的な定義ではありません。フリーランスが単発・短期のプロジェクトに従事することもあるので、フリーランスの中にギグワーカーが含まれると考えると分かりやすいです。

特徴6つ

ギグエコノミーは、一般的に以下の特徴をもちます。

  1. 柔軟性のある仕事形態
  2. プラットフォーム経由の仕事
  3. 多様な業種・職種
  4. グローバルな市場
  5. サービスの質の向上
  6. イノベーションの促進

それぞれ解説します。

1.柔軟性のある仕事形態

ギグエコノミーでは、自分の都合に合わせて仕事を選び、自分の時間を自由に管理できます。

2.プラットフォーム経由の仕事

ギグエコノミーは、インターネット上のプラットフォームを通じて提供され、プラットフォームはマッチング、支払い、評価、トラブル解決などを担当します。

3.多様な業種・職種

ギグエコノミーは、Webライター、デザイナー、家事代行、オンライン講師、単発バイトなど様々な業種・職種があります。

4.グローバルな市場

ギグエコノミーは、インターネット上のプラットフォームを利用することで、国境を超えて仕事をすることも可能です。

5.サービスの質の向上

ギグエコノミーは、プラットフォームによるレビューや評価、競争によって、高品質なサービスを提供することを促進しています。

6.イノベーションの促進

ギグエコノミーは、新しいビジネスモデル、技術、サービスを生み出すイノベーションのプラットフォームとして機能しています。

シェアリングエコノミーとの違い

ギグエコノミーと似た言葉でシェアリングエコノミーと呼ばれる言葉があります。

ギグエコノミーが人(労働力)を売り買いするのに対して、シェアリングエコノミーでは使われていない物・場所などを共有します。

シェアリングエコノミーの代表的な例は、ライドシェアと民泊です。

ライドシェアは一般ドライバーがアプリでマッチングした乗客を自家用車に乗せて共有。民泊では空き部屋を旅行者に貸し出します。

ちなみに日本の場合、有償でライドシェアをすることは、道路運送法第78条で禁止されています。タクシー業界や一部の団体からの反発もあり法改正や規制緩和の見通しは立っていません(※2)

ギグエコノミーの実態

ギグエコノミーという概念が新しいことからその適用範囲は広範で進化しているため、その実態を全て調査するのは複雑で難しいと言われています。

今回は、一例として興味深い調査を紹介します。

世界的な自粛で、生活やキャリアが大きく変わったという方も多いのではないでしょうか?

失業者が増える一方、ギグエコノミーの強さが雇用に光をもたらしているそうです。

The Growing Gig Economy (Infographic)によると、2020年、米国のギグエコノミーは33%成長しました。これは、米国経済全体の8.25倍の速さで、信じられない成長ぶりとのことです。

ギグエコノミーの歴史|始まりと発達した背景

ギグエコノミーの始まりと発達した背景は何か?

歴史を紐解きます。

ギグエコノミーの始まり

以下の資料によると、ギグエコノミーは、「1915年にジャズミュージシャンがギグという言葉を使って演奏したのが発端」だと言われています。

2009年以降、「ギグ・エコノミー」はフリーランスのアルバイトを指すようになったが、ギグ・エコノミーの始まりは、1915年にジャズミュージシャンが演奏を指す言葉として「ギグ」という造語を作ったことに遡る。1995年になると、アメリカ人の10%が派遣社員、請負業者、オンコール労働者といった代替的な雇用形態で働くようになった。2005年、Amazon Mechanical Turkが、AIにはできない単純な繰り返し作業を請け負うクラウドソーシングのマーケットプレイスをつくった。また、2005年には、家賃を安くする方法としてルームメイトによってAirbnbが作られ、当初は苦労したものの、2008年にはAirbnbの価値は380億ドルになりました。2010年には、2人の起業家が乗り物を見つけることの難しさに気づき、Uberを作り、わずか5年後には、Uberは10億人の乗り物を受け入れるに至っています。

出典:The History and Future of the Gig Economy

スクリプス大学経済学部助教授のNicholas Kacher氏によると、2007年に始まった大不況によりギグ・エコノミーの台頭は特に顕著になったと報告されています。(引用もと)

ギグエコノミーが発達した背景はITの発展

「ギグエコノミーはなぜ発達したか?」

デジタル時代の労働力がよりモバイルになり、どこからでも仕事ができるようになってきていることがギグエコノミーが発達した背景の一つとして考えられています。

日本でも、2020年頃からフードデリバリーが急速に普及して街で見かける機会が増えたという方も多いのではないでしょうか。

ギグエコノミーの問題点

ギグエコノミーの問題点は何か?

財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」令和2年第2号(通巻第143号)ギグ・エコノミーの発達と税制の課題によると以下の問題が発生していると提言されています。

  1. 無申告・過少申告といったタックス・ギャップ(Tax Gap)の拡大
  2. 自営業者と給与所得者の税負担の公平性
  3. 申告利便性

上記資料の中で、給与所得者並みの経費概算控除の導入、プラットフォーマーによる源泉徴収制度の導入を検討すべきと法学博士で東京財団政策研究所の森信茂樹氏が提言しています。

それぞれ分かりやすく紹介していきます。

1.タックス・ギャップ(Tax Gap)の拡大

ギグエコノミーでは様々なプラットフォームを通じてやり取りをするため、収入情報を入手することが困難です。

ギグワーカーは新しい働き方のため、これまで税務申告経験がなかったり、申告の必要性を理解していない場合も多々あります。

また、経費に関して帳簿を付ける習慣がないことから、申告水準が低くなりタックス・ギャップの拡大につながっていくと考えられています。

関連用語

タックス・ギャップ(Tax Gap):国内において本来納付すべき税金と実際に納付されている税金との差額

2.自営業者と給与所得者の税負担の公平性

ギグワーカーは自営業者(事業所得)なのか雇用者(給与所得)なのか従来の区分が通用しなくなっていることから、税負担の公平性が問題視されています。

3.申告利便性

会社員などの給与所得者と違い、申告に手間がかかるという問題点も浮上します。

自営業者:自ら税務申告を行い中間申告の義務も負う
給与所得者:源泉徴収と会社による年末調整により、医療費控除などがある場合を除き、原則申告不要

ギグエコノミーと貧困

前述した通り、ギグエコノミーは自由市場(政府や権力の介入を排除または最小限にとどめ、個人の自由な経済活動によって取引が行われる市場)のため、需要と供給の調整が最適化され、利益を最大化します。

そのため、ギグエコノミーが発達し労働者の数が多くなると、賃金が低くなり貧困化の助長になると考えられています。

また、社会保険などの適応外になることなどもあり問題視されています。

欧州労働安全衛生機構(EU-OSHA)によると、団体交渉を通じて「ギグ」労働者の保護を確保しようとすると、競争規制やカルテルの禁止に突き当たる可能性があると指摘されていて、解決が難しい問題です。(引用もと

ヨーロッパで進む法整備

世界的にギグワーカーの法整備などの議論が活発になってきていることもあり、今後は一般的な働き方として浸透していくことが期待されています。

実際、EUではギグワーカーの質を高める動きが盛んです。

12月9日、欧州委員会は、デジタルプラットフォームがギグワーカーを管理する方法を劇的に変化させる提案を発表した。同委員会は、この提案が可決されれば、約400万人が自営業者から従業員へと分類を変え、影響を受ける可能性があると推定している。

翻訳:EU Proposes New Protections for Gig Workers

条件はどうか?

以下の5つの基準のうち2つを満たせば、すべてのプラットフォームワーカーが従業員とみなされることになるとのこと。

  1. プラットフォームが給与を決定する。
  2. 身だしなみ、顧客に対する行為、業務遂行に関する規則に従うよう、プラットフォームが労働者に要求する。
  3. プラットフォームが電子的な手段を用いて仕事の成果を監督し評価する。
  4. プラットフォームは、作業時間またはアプリをオフにする自由を制限する。
  5. プラットフォームが独占権または非競合性を要求する。

日本でもギグワーカーを保護する動きが活発化

「日本ではどうか?」

2022年2月17日、日本でもギグワーカーの保護などを目的にスポットワーク協会が発足し活動しています。

また、2022年11月25日、東京都労働委員会が、ウーバーイーツの配達員を「労働者」として認める判断を下しました(※4)

配達パートナーに対し、プラットフォームを提供するだけでなく、配達業務の遂行に様々な形で関与している実態があることから、労組法上の労働者に当たり団体交渉に応じるべきと命令書を交付しています。

企業側が何もしていないわけではなく、労働者の待遇を改善する動きももあります。
※Uber Eatsの保険・補償拡大、ランサーズの手数料削減など

ギグエコノミーのメリット・デメリット

ギグエコノミーのメリットとデメリットを企業側と労働者双方の視点から解説します。

企業のメリットとデメリット

企業のメリットとデメリットは以下です。

メリット

  • 福利厚生、オフィススペース、トレーニングなどのリソースを節約可能。
  • 高額すぎてスタッフを維持できない特定のプロジェクトの専門家と契約が可能。

デメリット

  • 人手が足りない時に、随時募集をかけなければならない。
  • マルチなスキルを持つ人材が育ちにくくなる。

企業は都合がいい時に

労働者のメリットとデメリット

労働者のメリット・デメリットは以下です。

メリット

  • 都合がいい時だけ働くことができる
  • 柔軟性と独立性を獲得できる。
  • 継続的に長期間働く必要がないので、ワークライフバランスを改善することが可能。
  • 働いた分だけ収入を得ることが可能。

デメリット

  • 確実に仕事が得られるという保証がないので、正社員より収入が安定しない。
  • 福利厚生や補償などが十分でない。

自分の都合がいい時だけ働くことができるという大きなメリットはあるものの、毎日確実に収入を得られるという保証がないので、正社員やシフト制のアルバイトのような収入の安定はありません。

ギグエコノミーの未来はあるのか考察

米国では、2027年までに労働人口の60%が独立したプロフェッショナルになり、企業はギグワーカーたちの権利向上に最大60億ドルを費やすと言われています(※3)

日本の場合、フードデリバリーの統合が進んでいますが、、空いた時間に単発の仕事をするすきまワーカーが増えた(※5)ことでセーフティーネット(休暇や所得補填)が問題視されています。

しかしながらそれと同時に、時間・空間の制約からの解放が進むと期待しているフリーランスや会社員が多いです。

ギグエコノミーは働き方の選択肢を提供する場として発展していくのではないでしょうか。

まとめ

最後に「ギグエコノミーの意味と歴史的背景と発達した理由、メリット、デメリット」について簡単にまとめています。

本記事のまとめ
  • ギグエコノミーは、短期的な仕事に従事するフリーランス労働者が、オンラインプラットフォームを通じてサービスを提供する新しい経済システム。
  • ギグエコノミーの特徴6つ
    • 柔軟性のある仕事形態
    • プラットフォーム経由の仕事
    • 多様な業種・職種
    • グローバルな市場
    • サービスの質の向上
    • イノベーションの促進
  • ギグエコノミーの歴史の始まりは、1915年のジャズミュージシャンがギグという言葉を使って演奏したことが発端。デジタルの発展で労働力がモバイル化し発達したことが背景にあると考えられている。
  • ギグエコノミーは、企業側と労働者側どちらにもメリットがあるが、労働者が増えると貧困が問題になる可能性がある。
  • 近年、世界的にギグワーカーを保護する動きが活発化。保証や福利厚生の仕組み作りが課題。

参照リンク
(※1)Gig Economy: Definition, Factors Behind It, Critique & Gig Work
(※2)ライドシェアの導入に反対し、安全安心なタクシー事業を守る施策推進を求める意見書
(※3)The History and Future of the Gig Economy [Infographic] – Business 2 Community
(※4)Uber Japan事件命令書交付|東京都
(※5)フリーランスの取引実態と課題

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